
小劇場3本連続出演について
唐橋充(以下:唐):まぁ、フルーチェ1年分送ってくれるからって言うから…。ああ、この人たちといればパティシエの夢が叶うかもって。
一 小劇場ですよね?(笑)
唐:ええ、間違えました。小劇場の話でしたね。本音は原点に立ち返りたかった、みたいな、極めて個人的な理由です。プロフィールにも書いたんですけど、1度夢が一巡りしたというか…。
一 一巡り?
唐:はい。十臓さん(侍戦隊シンケンジャーの役柄) 中に、やばいぞと。
ー やばい?
唐:ええ。基礎から作り直さないと駄目だなと思いまして。小劇場は、僕の基礎ですから。
ー 十臓さんは好評だったじゃないですか。
唐:いやいやいやいや、周りのフォローあってこそでしたから。
ー 今にしてみれば、もっとああできたとか、こうできたっていう?
唐:…多分、50年後演っても同じ十臓さんだとは思います。ベストで臨ませていただけましたから。でも、身体がまだもうちょっと動けるうちに、舞台3本って面白いかなと思って。
ー 立て続けに、オファーがドドドっと?
唐:単純に断る理由がなかったっていうことと、たまたまお誘いが3本あったっていう。今まではお断りさせてもらっていたので。でもね、舞台は1ヶ月ずうっと稽古できるので、随分氣持ちは楽ですよね。「ナマモノで怖いでしょ」とみんな言うかもしれないですけど、ずっと稽古できるんですからね。映像は、二三度のテストで、おお!ってとこを引っぱり出さなきゃだめですから、試されているなあって。氣持ちに余裕が生まれることは稀ですよね。
ー 台本、台詞入れて現場行って、リハやって、はい本番。
唐:リハで演出を受けて、ここで一歩止まって、振り向かえる。極めて自然に。これ、1ヶ月稽古すれば誰でも覚えられるので。
ー (笑)
唐:セリフ、覚えられなくなったっていうのが本音ですけど。
ー (笑)えーっと、いま話しを聞きながら、本音と冗談とは聞き分けているつもりだったんですが、今の部分は?
唐:本音本音。本音です。せっかく覚えてきたのに、本番前の緊張感の中、「よーい」っておっきい声でびっくりして忘れちゃうんですよ。まあそれは嘘ですけど。覚え方が、色々一回りしちゃったんです。一度、完全にセリフをガチガチに入れていったら僕は現場の演出で急に変わった時に、上手に対応できなかったことがあったんですね。僕は絶対こっちの言い回しの方が良いと思うのに…。なんて腑に落ちないまま本番を終えたり。でもこれは、役者のエゴエゴですよね。作品は演出のものである。ということが分かってからというもの、完全にセリフを入れてはいかないことにしたんです。勿論これは、器用な人がやることではないですよね。下手なんだなって思います。色々が。で、結局、ふわふわしたままで現場に行くものだから、全くね、現場に行く時はいつも、ないんですよね、自信が。なので、ここにきて小劇場というわけです。
ー なるほど。それで、最後にやった舞台はいつでしたっけ。
唐:えーっと。シアターアプルの「火男の火」。
ー じゃ、本当に1年間ずっとやってなかった感じですよね。ずっと小劇場がメインでという感じで来てたのが「最遊記」っていうデカイ舞台をやって…。
唐:でも、転機っていう転機はやっぱり劇団新感線の新人公演に出させてもらったのが…。
ー えっ、あれ誰でしたっけ?
唐:あの僕、いい役でやらせてもらったんです、昔。24の時かな。
ー 今や新感線バブルじゃないかといわれているほどのあの劇団に!
唐:それが小劇場から急に1000人規模の舞台だったの で、ビビりましたね。でもそれで味が大好きになったのは結構あるかもしれない。
ー 味を? どっちに?
唐:舞台。
ー ああ。1000人規模でやるのは気持ちいいなぁと。
唐:氣持ちいいというよりは……わかったんですよ。生きている意味が。
ー 生きている意味が? いいっすねぇ。
唐:お客さまの呼吸がわかった瞬間。初めてでした。注目されるのが大嫌いだった僕が、沢山の方に見つめられても平氣な瞬間があったんです。そして、じゃあこのタイミングで俺、こうセリフを言えばいいんだね、みたいな強制的にお客さまに言わされるみたいな贅沢な雰囲氣を味わって。もうそれ以来滅多にないんですけどね、神がかったあの瞬間は。
ー それは本番になって?
唐:そうですね。初日…。二日目…三日目ぐらいからかな。でしたね。
ー なるほど。じゃあ、原点的な。
唐:そうですね。
ー 劇場の大きさ関係なく。
唐:あの瞬間には…関係はあるかもしれない。次は全席94人。
ー 俺を誰だと思ってるんだってね。
唐:ね。俺は南翔太だっつうのに。
ー 違います!(笑)
唐:ホントに?
ー まだ3本ともどんな舞台かは…。
唐:わからないですね。1本目しか。あと、2本目は帝銀の話なんですけど。それくらいしかまだ。
ー 笹塚ファクトリーですね。今、唐橋充が舞台をやるっていったら、アクトシアター…。
唐:新宿ガード下じゃないですか?
ー 天王洲アイルくらい。
唐:渋谷の交差点、青の時だけとか。
ー ああ、短いですね(笑) 俳優座は?
唐:俳優座はシビれますね。俳優座で観た『今度は愛妻家』という舞台は、もう、とんでもなくよかった。当時ではじめの真木よう子さんとか、池田成志さん、長野里美さん、横塚進之介さん、高橋長英さん。中谷まゆみさんの本を板垣さんの演出で。もう音楽も美術も明かりもすごかった。そんなすごい舞台を観た後に、キャストの横塚さんが小劇場に出ていてびっくりしたんですよ。なんだかそれがかっこよかったんですね。これは真似しようって思いました。でも小林雄次さんのが4月の頭に終わって、次まで実質稽古期間が10日しかないですからね。これはさすがにどうかと思いますよ。
ー 自分自身への挑戦。
唐:聞こえはいいですね…。
ー 結構「最遊記」はキャラクターなお芝居じゃないですか。ああいうのはやってみていかがでしたか。
唐:幸か不幸か「そのままでいい」と言われたので。逆に悩みどころでしたよね。だからも一度原作読み込みましたよね。雲を掴む思いで。
ー おお、読みましたか。
唐:もちろん、もちろん。
ー アニメは?
唐:アニメは観ませんでした。声優陣がすごいんですもの。それに原作のミュージカル化だったので。でもみんなアニメを観ていたみたいでこっそり焦ってましたけど。で、終わってからこっそり観たりしたり。実際に動くニー・ジェンイーを観てしまうと、後戻りできない氣がしていたんですね。例えば、似てる似てないは置いといて、僕 が持っているピッコロ大魔王へのイメージと、他の人間が持っているピッコロのイメージには多かれ少なかれ誤差があると思うんです。
ー そりゃ、そうでしょうね。誰しもね。
唐:そこ、そこなんですよ。だから、原作に似せる。を仮に追求していっても、果てにはどうしても他者とは埋められない溝が出てきますよね。だから、はじめから自分のイメージでぶつかっても構やしないんじゃないかと、客席にそれが伝わるなら、伝わらないよりいいのかしらと。
ー なるほど。例えば、僕はピッコロと聞くと魔貫光殺法なんですけど、唐橋充的には?
唐:僕はナメック星に降り立ったシーン。ここが生まれ故郷か…。
ー ですか。なるほどね。あの頃までですよね、ピッコロが格好良かったのは。
唐:ノーコメントでお願いします。
ー あとはどんどんなんかこう…。
唐:ツッコミ役になってしま、あ、ノーコメントでお願いします。でも、あれはネイルさんのせいでしょうね。
ー ネイルさんが融合しちゃったから?
唐:そうです。ネイルさんの根幹の素質が浮かび上がってきたのです。
ー そうかなぁ?
唐:間違いありません。ちなみにノーコメントでお願いします。
ー ネイルさん真面目じゃない?
唐:ネイルさんがふざけはじめてるんです。
ー ネイルさんあんなふざけキャラだったんですか、実は。融合したら全然違うキャラになっちゃったっていうことなんですね…。なんでドラゴンボールの話なんですか。
一同 (笑)
唐:僕が演劇研究会というところでやってた頃は客席100人前後 だったんですが、ある舞台の初日、5分間台詞が出てこなかったっていう事件があるんです。
ー 5分台詞が出ないって…。ちょっと待ってください。
唐:舞台上では1生分の体感時間。永遠でした。
ー 5分止まっちゃうわけじゃないでしょ?
唐:いえ、止まりました。
ー 止まった!
唐:ええ。
ー 普通誰かフォローするでしょ?
唐:フォローできないんですよ。僕の長台詞の中に、照明、キャストの出ハケ、全てのきっかけがあったので、それを言わない限りは誰も何もできないんです。
ー なるほど。それはやっちゃいましたね…。
唐:新しい仕事が入る前日には決って、その時の夢をみて脂汗かいて起きます。でも、それをもう1回試したいというか、この年になって。
ー この年になって。
唐:うん…。と思ってます。
ー 小さいところ、新宿のスペース107はまぁ、それなりに大きいですかね。及川奈央さんと回ったのは? ライブハウスみたいな。
唐:ああ、でもあれ客席5人とかの時がありましたからね。
ー あら、まあ!
唐:どこだっけ?
ー 仙台?
唐:5人は言い過ぎましたけど、10人くらい。
ー 地方の方で?
唐:うんと地方でしたね。
ー じゃ、本当に小劇場、小劇場したところは久しぶりな感じのわけですね。
唐:そうですね。楽しみですね。どうなるかなっていう、その緊張感。1万人相手とかじゃ逆にあがらないというのは、僕は知っていてというか、その仕組みは分かっていて。その少なくなればなるほど、やっぱりあがってくるんだろうなっていうのがありますよね。まぁ、噛んでも死なねえし(笑)って究極の逃避を併せ持って。頑張ります。
ー 5分止まったって生きているわけじゃないですか。
唐:ねえ。でも、あの時の僕がまだ生きている事実を、きちんと認識していないと、もう律せないですよ自分を。この公演が終わったらやめよう。そうだ。南極にゆこう。とりあえず楽日まではうんと責任あるからって。ずっと思ってたんですけど。
ー 東尋坊に身を投げようぐらいな。
唐:なんだってやるつもりでした。…でもその頃、路上生活で、家なかったですからね。お風呂入ってないし。
一同 (笑)
ー 吉田拓郎っぽかったですね。今ね。
唐:冬は風呂なんかいいやって思ってたんですけど、先輩の舞台に招待されて観にいったら、その芝居のアンケートに、隣の人が臭過ぎて舞台に集中できなかったって書かれたらしくて、おもいっっきり先輩に怒られましたよ。そうやってあの頃は24時間演劇のことしか考えてなかったのに、あの台詞を覚えられなかったっていう僕のIQとか偏差値の問題になってくるんでしょうけどね。
ー 偏差値かなぁ…?
唐:一応大学は入れましたけど。
ー 偏差値の問題でもないっていう感じが。
唐:長台詞を覚えられないっていう、完全にこれはもう学力の話ですよ。
ー いやいやいやいや。
唐:A4何ページだったかな。
ー ちゃんと覚えて、よし、入れた! あとちゃんと寝るとかね。
唐:当時僕ができなかったことは、稽古の時から本番を想定していなかった。ということに、最大の敗因があるんですね。以外とこれ、むつかしいんですよ。稽古場キング。なんて言葉がありますけど、稽古場で、如何に本番仕様で立っているか。すんごい大事。それが当時できていませんでしたね。 稽古場のみんなを笑わそうという感覚とは全然違う、本当に架空の真っ暗な空間を想像できて、照明がたかれていて、見えない人たちがいる空間をどれだけ想像できてそのセリフを言っているのか。
ー そういったところも、今回3連続で。
唐:やれないとだみですね。
ー なるほどね。今回シンケンジャーで、初めて唐橋充という役者を知って観にくるお客さんも中にはいるのかなぁと思うんですけど。
唐:ああ。がっかりすると思いますよ。ふけてんなあとか。
ー ありがとうございました(笑)
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